父から内装工事会社を引き継いだ2代目社長のQさん(仮名、42歳)にお話を伺いました。経営者として会社を引き継ぐ覚悟、現場と経営の両立の難しさ、そして親子ならではの葛藤について率直に語ってくれました。
家族で営む建設会社ならではの、距離の近さと難しさ——その両方を引き受けてきたQさんの言葉には、同じ立場で悩む経営者や、将来事業承継を考えている方にとってのヒントがいくつも詰まっていました。派手な成功譚ではなく、現場を歩き続ける一人の職人兼経営者としての静かな歩みを、じっくりと伺いました。
取材対象:Qさん(仮名)のプロフィール
- 年齢:42歳
- 学歴:大学経済学部卒業
- 職歴:他社営業5年→父の会社20年→2代目社長(4年目)
- 会社:内装工事会社(従業員12名)
- 保有資格:2級建築施工管理技士、内装仕上げ施工技能士
経済学部から営業職、そして職人へという経歴は、建設業界の2代目としては珍しいかもしれません。しかし、他業界で培った営業の視点と、現場で身につけた技能の両方を持っていることが、今のQさんの経営の幅を広げる大きな財産になっていると感じました。
家業を継ぐことを決めたきっかけ
「大学卒業後は、他社で営業を5年やっていました。その頃は家業を継ぐつもりはなかったんです。しかし、父が体調を崩したのをきっかけに、『このままでは会社が潰れる』という危機感から、家業に戻ることを決めました。」
Qさんは28歳で父の会社に入社し、職人として現場経験を積みながら経営の勉強をしたといいます。
「正直に言えば、戻ると決めた瞬間は、期待よりも不安の方がずっと大きかったです。ただ、父の背中を間近で見ていた従業員の方々の顔を思い浮かべたら、『自分が動かなきゃ誰が動くんだ』という気持ちが自然と湧いてきました。」——そう話すQさんの声には、覚悟を決めたあの日の空気が今も残っているように感じました。
職人としての修業期間
他社の営業経験しかなかったQさんは、現場作業もゼロから学びました。
- クロス貼りの基本技能
- 床仕上げ工事
- パテ処理・下地処理
- 現場の段取り
- 職人との関係構築
「最初の5年は、純粋に職人として現場で働きました。社長の息子だからといって特別扱いはされず、むしろ厳しく指導されました。」
下地の良し悪しが仕上がりを決めるという内装工事の世界で、Qさんは「見えない部分の丁寧さ」こそが信頼を生むことを体で覚えていきました。現場で身につけた感覚は、後に経営の判断をするときにも「これは本当に顧客のためになるのか」という基準として生き続けているそうです。
経営への参画
現場経験を積んだ後、徐々に経営にも関わるようになりました。
| 時期 | 役割 |
|---|---|
| 入社1〜5年 | 職人として現場経験 |
| 入社5〜10年 | 職長・現場責任者 |
| 入社10〜15年 | 営業・見積担当 |
| 入社15〜20年 | 経営参画・専務取締役 |
| 入社20年目〜 | 社長就任 |
段階を追って役割が広がっていったことで、一つひとつの仕事の難しさを自分の体で理解することができたといいます。職人から職長、見積、経営へと景色が変わっていく中で、「現場と経営は別物ではなく、地続きなんだ」という実感が少しずつ深まっていきました。
親子で経営する難しさ
父親と経営する中で、難しさも多かったといいます。
- 意見の対立
- 親子という関係の重さ
- 古いやり方への固執
- 新しい提案への抵抗
- 従業員の目線
- 感情的になりがち
「父と意見が合わず、何度もぶつかりました。でも、それも会社を良くしたいという気持ちは同じだったからです。」
家族だからこそ言えることもあれば、家族だからこそ言いにくいこともあります。会議の場では冷静に話せたことが、家に帰って食卓についた瞬間にぎこちなくなる——そんな難しさも経験したといいます。時間が経ってみると、その一つひとつのぶつかり合いが、会社を次の形に進める原動力になっていたことがわかってきたそうです。
社長就任の覚悟
38歳で正式に社長に就任したQさん。その時の覚悟を教えてくれました。
「12名の従業員とその家族の生活を守る責任の重さを、就任した日に強く感じました。自分1人の問題ではなく、会社全体の未来を背負うという覚悟が必要でした。」
社長就任の当日、帰り道で夜空を見上げながら「明日から本当に背負えるのだろうか」と自分に問いかけた瞬間があったそうです。それでも朝になれば会社の鍵を開けて、従業員を迎える自分がいる——その繰り返しの中で、覚悟は少しずつ日常の一部になっていったと語ってくれました。
経営者としての苦労
社長になってからの苦労を具体的に挙げてくれました。
- 資金繰り:キャッシュフローの管理
- 従業員との関係:古参社員と新人
- 顧客との関係:契約・クレーム対応
- 営業活動:新規開拓
- 税務・法務:複雑な手続き
- 孤独感:決断の責任
中でもQさんが一番つらかったと話すのは、決断の孤独です。誰かに相談できても、最終的に判断を下すのは自分ひとり——そのプレッシャーは、父親が背負い続けてきたものでもあったのだと、社長になって初めて実感したそうです。
父から学んだこと
父親から引き継いだ大切なものは何か聞きました。
- 職人としての誇り
- 顧客第一の姿勢
- 仕事に対する真摯な態度
- 地域との関係の大切さ
- 従業員を家族のように扱う精神
- 長期的な視点
技術や経営のノウハウ以上に、Qさんが大切にしているのは父の姿勢そのものです。目の前の利益に流されず、数十年先の会社と地域を見据えて判断する——その視点は、経営に迷ったときに必ず戻ってくる拠り所になっていると話してくれました。
新しい取組み
一方で、Qさんは2代目として新しい取組みも始めています。
- SNSによる営業・広報
- 施工管理アプリの導入
- 若手の積極採用
- 働き方改革の推進
- 教育制度の整備
- 新しい工法への挑戦
引き継いだものを守るだけでは会社は続かない——その実感から、Qさんは小さな挑戦を日常的に積み重ねています。大きな改革を一度に打ち出すのではなく、従業員が無理なく付いてこられる歩幅を意識しているのが特徴的でした。
現場と経営の両立
社長になっても、Qさんは現場にも顔を出すようにしているそうです。
「オフィスに座っているだけでは、現場の実情は分かりません。週に2〜3回は現場を巡回して、職人さんと話をしています。小さな会社だからこそできる経営スタイルだと思います。」
現場で交わされる何気ない会話の中に、次の改善のヒントや新しい仕事の種が隠れていることは少なくありません。社長が現場を歩くこと自体が、従業員にとって「自分たちの仕事を見てくれている」というメッセージになるのだと、Qさんは意識して続けているそうです。
2代目経営者の悩み
2代目ならではの悩みも教えてくれました。
- 「先代の方が良かった」と言われる
- 父と比較される苦しさ
- 独自色を出しにくい
- 古参社員との距離感
- 新しい取組みへの抵抗
将来のビジョン
Qさんが描く会社の未来像を聞きました。
「20年後も残る会社にするのが目標です。そのためには、若手の育成と新しい技術への対応が欠かせません。従業員が誇りを持って働ける会社を作り続けたいと思います。」
事業承継を考える方へ
これから家業を継ぐ、または2代目として会社を引き継ぐことを考える方へのメッセージです。
「継ぐことを決めたら、まず現場経験をしっかり積んでください。経営は机上の空論では務まりません。現場を知っている経営者こそ、従業員からも顧客からも信頼されます。親との衝突は避けられませんが、同じ方向を向いていれば必ず乗り越えられます。」
まとめ
Qさんの経験は、事業承継のリアルな姿を伝えています。親子での経営には特有の難しさがありますが、現場経験と覚悟があれば乗り越えられます。家業を継ぐことを考えている方、将来の経営者を目指す方にとって参考になる事例でしょう。
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