東南アジアで10年間働き、日本に帰国した40代建設技術者のTさん(仮名)にお話を伺いました。海外経験で得た視点、日本に戻ってからの気づき、そして今後のキャリアプランについて率直に語ってくれました。

Tさんの語り口はとても落ち着いていて、どの国での経験にもフラットに向き合う姿勢が印象的でした。異なる文化の中で働くことで培われた包容力が、帰国後の仕事にも生きているように感じられました。

取材対象:Tさん(仮名)のプロフィール

まずはTさんの基本情報をご紹介します。長期の海外経験と国内でのキャリアをどのように積み重ねてきたのか、プロフィールからその軌跡が見えてきます。

  • 年齢:44歳
  • 学歴:大学工学部 建築学科卒業
  • 職歴:日本ゼネコン→海外勤務10年→帰国
  • 海外経験国:ベトナム、インドネシア、シンガポール
  • 現職:中堅ゼネコンの海外事業部
  • 保有資格:1級建築施工管理技士、技術士(建設部門)

現在は海外事業部で後進の指導にも関わっており、自らの経験を次世代へと継承する役割も担っています。

海外勤務を志望した理由

「30歳を目前に『このまま日本の現場で終わりたくない』と感じました。大学時代から国際的な仕事に憧れがあり、自分の技術力を海外で試したかったんです。会社の海外事業拡大のタイミングで、自ら手を挙げました。」

当時の同僚には海外勤務を敬遠する人も多く、Tさんの決断は周囲から少し驚かれたそうです。それでも「やらずに後悔したくない」という思いが背中を押してくれたといいます。

海外での10年間

Tさんの海外経験を国別に紹介します。

期間プロジェクト
ベトナム3年工業団地・工場建設
インドネシア4年商業施設・高層ビル
シンガポール3年地下鉄・インフラ

国が変わるたびに働き方も言葉も文化も異なり、毎回ゼロから人間関係を作り直す必要があったそうです。そうした積み重ねが、柔軟性を一層高める経験になったと振り返っていました。

海外で感じた日本との違い

海外で働いて感じた、日本の建設業界との違いを教えてくれました。

  • 品質への意識:日本が圧倒的に高い
  • 工期の考え方:海外は柔軟
  • 作業員の多様性:複数の国籍
  • コミュニケーション:英語が共通語
  • 賃金格差:日本人技術者は高給
  • 安全意識:日本の方が厳格

日本の常識が海外ではまったく通用しないこともあり、最初は戸惑いも多かったそうです。ただ、違いを受け入れることで新しい視点が得られたと話していました。

言語の壁を越えた経験

海外での最大の課題は、やはり言語でした。

「英語は大学時代に少し勉強した程度でしたが、現場では専門用語の英語が必要でした。最初の1年は、技術的な指示を伝えるのに苦労しました。でも、図面とジェスチャーを組み合わせれば、なんとか伝わるものです。2年目以降は日常会話もできるようになりました。」

赴任前に語学を完璧に仕上げる必要はないと感じているそうです。現地で必要に迫られて話すことで、実戦的な力が身についていくと振り返っていました。

現地スタッフとの関係

現地スタッフとの関係構築について聞きました。

  • 文化・宗教への配慮
  • 現地の祝日・習慣の尊重
  • 食事の違いへの理解
  • 階級社会への対応
  • 日本の技術を丁寧に教える
  • 現地の知恵に学ぶ姿勢

相手の文化を尊重する姿勢こそが、信頼関係を築く一番の近道だったといいます。日本のやり方を押し付けず、互いに学び合う関係を作ることを心がけていたそうです。

海外勤務のメリット

10年間の海外勤務で得たメリットを紹介します。

  1. 大規模プロジェクト経験:日本ではできない規模
  2. 英語力の向上:ビジネスレベルに
  3. 多国籍チームのマネジメント:貴重な経験
  4. 高待遇:日本勤務の1.5倍以上
  5. 貯蓄ができた:生活費が会社負担
  6. グローバルな視点:日本を客観視

これらの経験はキャリア後半の大きな資産となっており、今の仕事にも直接役立っていると実感しているそうです。

海外勤務のデメリット

一方で、以下のようなデメリットもありました。

  • 家族と離れる寂しさ
  • 日本の家族行事に参加できない
  • 医療・治安への不安
  • 食事の違い
  • 長期的なキャリア設計の難しさ
  • 帰国後の再適応

特に家族に関わる部分は、海外勤務を考える上で最も慎重に検討すべきだと強調していました。

帰国を決めた理由

Tさんが帰国を決めた理由を教えてくれました。

「子どもの教育を日本で受けさせたいと思ったのが一番の理由です。妻と子どもは2年前から日本に戻っていて、単身赴任を続けていましたが、家族の時間を大切にしたいと考えて帰国を決断しました。」

帰国のタイミングは本人にとっても家族にとっても大きな決断であり、キャリアと家庭のバランスを考え抜いた上での選択だったそうです。

帰国後の気づき

日本に戻ってから感じた気づきを教えてくれました。

  • 日本の品質管理の高さを再認識
  • 書類業務の多さに改めて驚く
  • 職人さんの技能の高さ
  • 働き方改革の進展
  • ICT化の遅れ
  • 若手不足の深刻さ

外から日本を見直したことで、長所も短所もよりくっきりと見えるようになったと話していました。

海外経験の活かし方

帰国後、海外経験をどう活かしているか聞きました。

  • 海外事業部でのプロジェクト管理
  • 海外案件の提案・営業
  • 若手技術者への英語指導
  • 海外企業との交渉
  • 多文化対応の現場管理

海外経験は翻訳通訳の力だけでなく、異文化を橋渡しする調整力としても高く評価されているそうです。

これから海外を目指す人へ

Tさんから、これから海外勤務を目指す方へのメッセージです。

「海外勤務は大変なこともありますが、得るものは想像以上に大きいです。技術力はもちろん、人生観も広がります。家族との時間と引き換えになる部分もありますが、挑戦する価値は十分にあります。若いうちに、一度は海外で働くことを強くおすすめします。」

迷っている人ほど、短期出張や研修の機会を活かして海外の現場を覗いてみることをすすめているそうです。

今後のキャリアプラン

Tさんの今後のキャリアプランを聞きました。

  • 海外事業部で管理職を目指す
  • 東南アジアプロジェクトの責任者
  • 若手の海外派遣支援
  • 将来は海外事業の独立も視野

海外と日本をつなぐ橋渡し役として、これからも幅広い活躍が期待できそうです。

まとめ

Tさんの経験は、海外勤務が建設技術者のキャリアに与える大きな影響を示しています。語学力・プロジェクト経験・グローバルな視点——これらは帰国後も大きな武器になります。海外に興味がある方にとって、参考になる事例でしょう。

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