土木の現場で現場代理人として活躍する30代女性のSさん(仮名)にお話を伺いました。男性中心だった土木業界で、どのように道を切り拓いてきたのか、職場環境の変化や仕事のやりがいについて語ってくれました。
女性の現場技術者が今ほど一般的ではなかった時代に入社し、周囲の偏見や設備面の課題を一つひとつ乗り越えてきたSさんの歩みは、これから建設業界を目指す方にとって示唆に富む内容です。インタビューでは、技術者としてのプライドを守りつつも、柔軟に環境へ適応してきたしなやかな姿勢が印象に残りました。
取材中、Sさんは過去を振り返りながらも、常に前を向く言葉を選んで語ってくれました。悔しかった経験を単なる思い出話にせず、後輩に伝えるための教訓として整理しておられる姿は、指導者としての成熟を感じさせます。現場で積み重ねた小さな成功体験が、今の揺るぎない自信につながっているのだと受け止めました。
取材対象:Sさん(仮名)のプロフィール
まずはSさんの基本情報をご紹介します。学歴・職歴・保有資格を確認しておくことで、インタビューの背景がより立体的に伝わります。
- 年齢:34歳
- 学歴:大学工学部 土木工学科卒業
- 職種:土木施工管理技士(現場代理人)
- 勤続:12年(中堅建設会社)
- 保有資格:1級土木施工管理技士、技術士補
専門分野は河川・道路の土木工事で、最近は橋梁の補修工事にも携わっています。現場での打合せから書類作成まで幅広くこなし、後輩の指導にも積極的に関わっているそうです。
新しい工種に挑む際は必ず事前に文献を読み込み、先輩から話を聞いてから臨むというSさんの準備の徹底ぶりは、社内でも高く評価されているといいます。常に学び続ける姿勢が、幅広い工種に対応できる土台を作ってきました。
土木業界を選んだ理由
「大学で土木を学んでいた時、橋やトンネルを作る仕事に憧れました。『社会を支えるインフラを自分の手で作れる』という魅力に惹かれて、迷わず建設業界を選びました。」
大学の同級生の多くはコンサルタントや公務員を選びましたが、Sさんは「実際に現場で作るほう」を選択しました。
ご自身の手でかたちに残るものを作りたいという思いが強く、机上の計画よりも、実際に現場で図面を立体化していく仕事にやりがいを感じたといいます。家族や友人からは「大丈夫なの」と心配されたそうですが、学生時代のインターンシップで現場の面白さに触れた経験が、決断の後押しになりました。
地域の生活を支える道路や河川整備に関わりたいという思いは、幼少期に地元で災害復旧の様子を見たことがきっかけだったそうです。机の上の勉強よりも、現場で汗をかきながら形を作っていく仕事に、自分らしさを感じたとのことでした。
入社時の状況
入社した頃の建設業界は、まだ女性の現場技術者が少なく、以下のような困難がありました。
- 現場に女性用トイレがない
- 更衣室がない
- 「女性には無理」という先入観
- 同期に女性がいない
- 相談できる先輩がいない
入社直後は配属先の現場に女性が一人もおらず、身の回りの設備を整えるところから相談する必要があったそうです。上司も戸惑いながら対応してくれましたが、前例が少ないなかで試行錯誤する日々が続いたといいます。
当時は社内にロールモデルとなる女性技術者がいなかったため、自分のキャリア像を描くこと自体が難しかったといいます。Sさんは社外の勉強会や交流会に参加しながら、他社で働く女性技術者と情報交換することで、孤独感を和らげていきました。
最初の壁
「入社当初は、何をするにも『女性だから』と見られていました。職人さんからは『女が何しに来た』と言われたこともありました。でも、私は『女性だから』ではなく『1人の技術者として』見てもらいたかったんです。」
悔しさで涙が出そうになることもあったそうですが、感情的に反論するのではなく、事実と数字で応える姿勢を貫いたといいます。先入観は一朝一夕には消えませんが、日々の積み重ねが少しずつ評価を変えていくと実感した時期でした。
反発する気持ちを抑えるのに苦労した一方で、Sさんは「自分の振る舞いが後輩の働きやすさにつながる」と考え、冷静さを失わないよう努めたといいます。この時期に培われた忍耐力こそが、現場代理人としての判断力につながっていると語ってくれました。
壁を乗り越えた方法
Sさんが壁を乗り越えた方法を聞きました。
- 技術力で勝負:図面を誰よりも読み込む
- 誠実な対応:約束を守る
- 積極的な質問:知らないことは聞く
- 体力づくり:ジムで体を鍛える
- コミュニケーション:職人さんに話しかける
- 諦めない:辞めようと思った日もあった
特に効果があったのは、毎日誰よりも早く現場に出て、その日の段取りを頭に入れておくことだったそうです。準備の差が信頼につながり、「あの人に聞けば答えが返ってくる」という評価を得ていきました。
Sさんは職人さんとの距離を縮めるために、昼休みに雑談の輪に加わることを意識していたといいます。仕事の話だけでなく家族や趣味の話を交わすことで、一人の同僚として受け入れられていく実感があったそうです。
現場代理人になって
入社7年目、Sさんは現場代理人に任命されました。初めて自分の名前で現場を動かす立場になった時の気持ちを聞きました。
「責任の重さと同時に、『私にも任せてもらえる』という嬉しさがありました。初めての現場は規模の小さい河川工事でしたが、1つ1つの判断を自分で下さなければなりません。職人さんたちに助けられながら、無事に完工できた時の達成感は忘れられません。」
現場代理人になって初めて、経営面や発注者との調整まで含めた全体の難しさを理解したそうです。自分の判断が工程と安全を左右する責任に、身が引き締まる思いだったと振り返ります。
初めての現場では書類の不備で発注者から指摘を受けることも多く、夜遅くまで事務所で資料を作り直した日もあったそうです。そうした苦労の積み重ねが、次の現場からは自信を持って段取りを組めるようになる基礎になったと話してくれました。
職場環境の変化
Sさんが入社してから12年間で、職場環境は大きく変わったといいます。
| 項目 | 12年前 | 現在 |
|---|---|---|
| 女性用トイレ | ほぼなし | 多くの現場に設置 |
| 更衣室 | 存在しない | 女性専用 |
| 産休・育休 | 前例少ない | 取得実績多数 |
| 女性技術者の数 | ほぼゼロ | 徐々に増加 |
| 職人の意識 | 偏見あり | フラットに |
制度面の整備はもちろん、現場で働く職人さんや協力会社の意識そのものが大きく変化したことを日々実感しているといいます。
特に若手の職人さんは、女性の技術者がいることを自然に受け止めてくれると感じているそうです。世代交代が進むにつれて、現場の雰囲気そのものがより開かれたものになってきたと振り返ります。
子育てとの両立
Sさんは3年前に出産し、現在は1歳の子どもを育てながら仕事を続けています。
- 産休:予定日前6週間+産後8週間
- 育休:1年間取得
- 復帰後:時短勤務制度を利用
- 保育園:会社近くの認可保育園
- 夫との家事分担
- 両親のサポート
復帰直後は勘を取り戻すのに時間がかかったそうですが、周囲の理解と家族の協力があってこそ続けられていると感じているそうです。
子育て中の今だからこそ、工程を綿密に組んで無駄を省く意識が強くなったとも話してくれました。限られた時間を最大限に活かす工夫が、結果的に現場全体の効率化にもつながっているようです。
仕事のやりがい
現場代理人としての仕事のやりがいを聞きました。
「担当した橋が完成して、初めて車が通る日の感動は何にも代えがたいです。自分が計画し、職人さんたちと協力して作り上げた構造物が、これから何十年も地域の人々の生活を支えていく。この実感は、土木の仕事ならではのものだと思います。」
時には地元の方から「立派なものができましたね」と声をかけられることもあり、自分の仕事が地域に受け入れられている実感が何よりの励みになるといいます。
これから業界を目指す女性へ
Sさんから、これから土木・建設業界を目指す女性へのメッセージです。
「10年前に比べて、建設業界は本当に働きやすくなりました。女性だからといって特別扱いされることもなければ、排除されることもありません。技術力と誠実さがあれば、必ず認めてもらえます。迷っているなら、ぜひチャレンジしてほしいです。私たちが道を切り拓いてきたので、後に続く女性たちには、もっと働きやすい環境で活躍してほしいと思います。」
迷いがあるなら、まずは現場見学やインターンシップに参加してみることを勧めているそうです。実際の雰囲気に触れることで、自分に向いているかどうかが見えてくるとのことでした。
今後の目標
Sさんの今後の目標を聞きました。
- 技術士(建設部門)の取得
- 大型プロジェクトのリーダー
- 後輩女性の育成
- 女性活躍推進の活動
- 子育てと仕事の両立モデル
特に後輩の育成には強い思いを持っており、自分が苦労した部分を次の世代に繰り返させたくないと話してくれました。
まとめ
Sさんの経験は、女性が土木業界で道を切り拓くことの可能性を示しています。困難は多いものの、技術力と誠実さがあれば乗り越えられ、やりがいある仕事が待っています。これから業界を目指す女性にとって、大きな励みになる事例です。
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